AYB BLOG 003

連載「AIを考えていたら、人と組織の話になった」③

管理職も「in the Loop」から
「on the Loop」へ

2026.08.30
AI・DX組織・人材業務改善
山頂に立つ管理職を中心に、細かな確認・指示を行うin the Loopと、仕組みを整え全体を見守るon the Loopを左右に対比した図

「AIを考えていたら、人と組織の話になった」。全3回の最終回です。

第1回では、AIとの関わり方を、プロンプトだけではなく、コンテキスト、ハーネス、ループまで含めて考えることについて書きました。

第2回では、AIに仕事を任せようとすると、「共有されているはず」「分かっているはず」という前提が通用しなくなることから、人への仕事の任せ方や、組織の中の暗黙の了解について考えました。

最後に考えたいのは、仕事を「任せた後」です。

相手がAIでも人でも、仕事を任せる範囲が広がれば、管理する側は何を見ればよいのでしょうか。

管理職も「in the Loop」から「on the Loop」へ

プレイヤーとして優秀だった人が管理職になると、部下の仕事の中に入りすぎることがあります。

資料の一言一句を直す。
メールをすべて確認する。
トラブルが起きれば自分で解決する。

自分がやった方が早いからです。

そして、実際にその方が早いことも少なくありません。

しかし、それを続ける限り、その管理職は、すべての仕事のループの中に居続けることになります。

部下が資料を作る。
管理職が確認する。
直させる。
また確認する。

案件が増えれば、管理職自身がボトルネックになります。

これは、AIでいうHuman in the Loopの状態と、少し似ているように感じます。

Human on the Loopは、「見なくてよい」という意味ではない

Human in the LoopとHuman on the Loopは、AIに対する人間の関わり方を説明するときに使われる言葉です。

欧州委員会Trustworthy AIに関する文書では、人による監督のあり方としてHuman in the LoopやHuman on the Loopといった考え方が示されています。

Human in the Loopでは個々の意思決定サイクルに人間が関与し、Human on the Loopではシステムを監視し、必要な場合に介入できることが重視されます。

したがって、on the Loopは、

「AIに任せたから、人間は何もしない」

という意味ではありません。

見るものが変わります。

一つひとつの作業に毎回入るのではなく、

目的に向かっているか。
重要な指標に異常はないか。
想定外のことが起きていないか。
人間が判断すべきことが発生していないか。

を見る。

私自身は、「一つひとつの仕事の中にいる」状態から、「仕事が回る仕組みを見る」状態へ移る、と考えると分かりやすいと感じています。

もちろん、これはHuman on the Loopの定義そのものではなく、私なりの仕事への当てはめです。

管理職についても、同じように考えられる場面があるのではないでしょうか。

「自分がやった方が早い」を続けると、組織は大きくならない

管理職がすべてを見ることには、メリットもあります。

品質を保ちやすい。
失敗を防ぎやすい。
経験の浅い部下を助けられる。

特に、新しい仕事を始めるときや、経験の浅いメンバーに仕事を任せるときには、管理職自身がループの中に入る必要があります。

しかし、いつまでも同じ関わり方を続けることが適切とは限りません。

判断基準が共有される。
仕事のやり方が整う。
部下が経験を積む。
異常があれば報告される。

そうなれば、一件一件に管理職が入る必要性は下がっていきます。

管理職の役割も、仕事の成熟度やメンバーの経験に応じて変わるはずです。

AIの言葉を借りれば、管理職も「in the Loop」から「on the Loop」へ役割を移す場面がある、と考えることもできそうです。

任せるためには、統制も必要になる

では、仕事を任せれば任せるほど、管理を弱くすればよいのでしょうか。

私は、そうではないと思います。

WebサイトをAIと制作するとき、私は仕事を任せる範囲をかなり広げています。

例えば、

実際のファイルは変更してよい。
ローカル環境では動作確認してよい。

一方で、

本番環境には勝手に反映しない。
外部サーバーには勝手に触らない。
最終的な公開は人間が判断する。

といったルールを設けることがあります。

できることが増えるほど、どこまで任せるのかを明確にする必要があります。

これは企業で人に仕事を任せる場合にも似ています。

どこまで自分で判断してよいのか。
何を報告するのか。
何について承認を取るのか。
何を記録するのか。
異常が起きたら誰に相談するのか。

こうしたことを決めておく。

権限を渡すことと、判断範囲、報告、承認、モニタリングを設計することは、両立します。

「任せる」と「管理する」は、反対なのか

組織における権限について考える補助線として興味深いのが、Philippe AghionとJean Tirole「Formal and Real Authority in Organizations」です。

この論文では、組織における形式的な意思決定権限と、実際に意思決定へ影響を及ぼす実質的な権限について考察されています。

権限を持たせることは、部下の主体的な行動につながる一方、上位者から見れば、自分が直接コントロールできる範囲が小さくなる面もあります。

もちろん、この研究が「管理職はon the Loopになるべきだ」と主張しているわけではありません。

ただ、「任せるか、管理するか」の二者択一ではなく、

何を任せるのか。
どの情報を共有するのか。
何をモニタリングするのか。

を組み合わせて考える必要がある、という点では参考になります。

COSOInternal Control—Integrated Frameworkも、内部統制を単なる不正防止や規則遵守だけのものとしてではなく、組織が目的を達成するための仕組みとして捉えています。

「任せる」と「管理する」は、必ずしも対立するものではありません。

適切に任せるために、適切な管理の仕組みをつくる。

その方が実態に近いのではないかと思います。

ただし、「on」にいればよいわけでもない

ここでも、一つ注意が必要です。

仕事の中から離れ、監督する側に回れば、それだけで優れたマネジメントになるわけではありません。

自動化研究では、人が実際の作業から離れすぎることで、現場の状況を把握しにくくなり、異常時に適切に介入する能力が低下する「out-of-the-loop performance problem」が以前から指摘されています。

AIと管理職を同じものとして論じることはできません。

ただ、組織でも、

「任せたのだから、自分は知らなくてよい」

となれば、現場で何が起きているか分からなくなります。

いざ問題が起きたときだけ突然介入しても、適切な判断ができないかもしれません。

on the Loopであるためには、ループの中から必要な情報が届いている必要があります。

任せる。
しかし、状況は見える。
必要なときには介入できる。

この状態をどうつくるかが重要なのだと思います。

人間は、より外側のループを見る

第1回で紹介したAndrew Ng氏の「3つのループ」に、もう一度戻ります。

Ng氏が説明しているのは、AIエージェントを使ったソフトウェアやプロダクト開発における、

agentic coding loop
developer feedback loop
external feedback loop

という、異なる時間軸の三つのループです。

ここから先は、Ng氏の主張ではなく、私なりに会社組織へ置き換えたアナロジーです。

会社の仕事にも、似たような入れ子構造があるように思います。

最も内側では、担当者が仕事をし、自分で確認し、改善する。

その外側では、管理職が、

仕事のやり方は適切か。
判断基準は機能しているか。
現場に障害はないか。

を見る。

そして、さらに外側では、

顧客に本当に価値を提供できているのか。
売上や利益につながっているのか。
市場が変化していないか。
そもそも、この仕事を続けるべきなのか。

を見る。

内側の仕事をいくら高速化しても、顧客が求めていないことを高速で行っているのでは意味がありません。

AIによって内側の仕事を速く回せる場面が増えるほど、人間には、より外側のループを見ることが重要になる場面も増えるのではないでしょうか。

変わるものと、変えないもの

今回のアイキャッチでは、一人の管理職が山の上から二つの方向を見ています。

左側は、細かな確認や指示が必要な「in the Loop」。

右側は、仕組みを整え、任せ、全体を見る「on the Loop」。

ただ、どちらにいるとしても、その足元には、

目的
方針
価値観

があります。

管理職の関わり方は変わります。

新しい仕事なら深く入る。
人が育てば任せる。
異常が起きれば再び入る。

「in」から「on」へ一直線に進めばよい、という話ではありません。

状況によって行き来する。

そのときに、何のために仕事をしているのか、何を大切にするのかという軸まで動いてしまえば、組織は方向を失います。

任せる範囲は変わっても、共有する目的や方針は、むしろ明確である必要があるのだと思います。

AIを考えていたら、人と組織の話になった

この3回の連載は、AIの「ループエンジニアリング」という話から始まりました。

しかし考えているうちに、

仕事をどう任せるのか。
「分かるよね」に頼らず、どう共通理解をつくるのか。
社長やベテランの判断を、どう組織に残すのか。
権限委譲と統制をどう両立するのか。
管理職は何を見るべきなのか。

という、人と組織の話になっていました。

AIと人間を同じものとして扱うことはできません。

また、ここで紹介したAI、コミュニケーション、知識創造、権限委譲、内部統制に関する研究が、一つの理論としてつながっているわけでもありません。

それでも、私自身がAIと仕事をしている中では、

共有されていることを前提にしない。
目的や判断基準を言葉にする。
任せる範囲を決める。
結果を見ながら仕組みを改善する。
人間は、より大きな目的や外側の変化を見る。

という共通した問いが見えてきました。

AIを活用することは、単に仕事を速くすることだけではなく、自分たちが普段どのように仕事を任せ、判断し、組織を動かしているのかを問い直すきっかけにもなる。

AIについて考えていたはずが、いつの間にか人と組織について考えていた。

この連載のタイトルは、そんな実感から付けています。

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「分かるよね」は、AIにも新人にも通じない

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