AYB BLOG 004

AIを使いこなす力と
マネジメント能力

AI活用の成果を左右するのは、何の専門性か

2026.10.22
AI・DX組織・人材
左側でAIと一緒に画面の情報を確認する管理職と、右側でホワイトボードの前でメンバーと話し合う管理職を対比した画像

AI開発企業のAnthropicが、2026年6月に興味深い研究レポートを公表しました。

タイトルは「Agentic coding and persistent returns to expertise」(エージェント型コーディングと専門性の持続的な価値)。

同社が提供するAIツール「Claude Code」の利用状況を分析し、AIを活用して成果を上げるためには、どのような能力が重要なのかを検証したものです。

分析対象は、2025年10月から2026年4月までの約7か月間における、約23万5千人による約40万件の利用セッション。相当な規模の調査です。

Claude Codeは、プログラムの作成や修正などをAIが自律的に進めることのできるツールですが、プログラミング以外にも、データ分析や文書作成など、さまざまな業務に利用されています。

今回の研究では、AIと人間の役割分担や、利用者の専門性と成果の関係などが分析されています。

その結果、興味深い傾向が明らかになりました。

人間が「何をするか」を決め、AIが「どうするか」を決める

まず、人間とAIの役割分担です。

調査によると、仕事を進める上での「計画に関する意思決定」の約70%を人間が行い、「実行方法に関する意思決定」の約80%をAIが行っていました。

つまり、人間が「何をするか」を決め、AIが「どう実行するか」を判断するという役割分担が、実際の利用場面で見られたのです。

もちろん、人間がすべての計画を立てるわけでも、AIに実行をすべて任せるわけでもありません。

それでも、目的や方向性を人間が示し、具体的な実行の多くをAIが担うという構図が浮かび上がります。

AIを使いこなすには、対象業務の専門性が重要

次に興味深いのは、AI活用の成果と利用者の専門性との関係です。

研究では、AIに指示する際の具体性や、AIの成果を確認・修正する能力などから、利用者の対象業務に関する専門性を5段階で評価しています。

その結果、専門性が高いほど、AIを使った仕事の成功率も高くなる傾向が確認されました。

厳格な成功判定基準では、初心者レベルのセッションの成功率が15%だったのに対し、中級者以上では28〜33%でした。

また、専門性の高い利用者ほど、一度の指示でAIにより多くの作業を進めさせる傾向も確認されています。

重要なのは、ここでいう専門性が、必ずしもプログラミングの知識や技術を意味しないという点です。

例えば、経理担当者がAIを使って業務を効率化するプログラムを作成する場合、プログラムの書き方を知らなくても、必要な処理や業務上のルールを正確に説明し、出来上がったものが正しく動くかを判断できれば、成果につなげられる可能性があります。

実際、プログラムの作成・変更を伴うセッションの成功率を比較すると、ソフトウェア関連職が34%、それ以外の職種が29%と、両者の差は比較的小さいものでした。

これらの結果は、AIの活用において、技術的な知識だけでなく、対象業務をよく理解していることが重要であると示唆しています。

なお、この研究の成功率は、AIとのやり取りやテスト結果などから判定したものであり、実際の業務上の成果を直接測定したものではありません。

管理職はAIの使い方も上手?

そして、私が特に興味を引かれたのが、職種別の成功率です。

プログラムの作成・変更を伴うセッションについて、推定された職種ごとの成功率を比較したところ、主要10職種の中で最も成功率が高かったのは、管理職(Management Occupations)だったのです。

しかも、ソフトウェア関連職をわずかに上回っていました。

研究者は、この結果について、管理職として培われたスキルがAIに仕事を指示する際にも役立っている可能性を指摘しています。

ただし、管理職は成果が得られたことを明示的に伝える傾向があり、それが成功判定に影響している可能性もあるとしています。

また、職種はAIとのやり取りから推定したものであり、個々の利用者のマネジメント能力を実際に評価したわけではありません。

したがって、「優秀な管理職ほどAIを使いこなせる」と実証されたわけではありません。

それでも、私はこの結果を見て、なるほど、と思いました。

以前から、チームづくりや人材育成が上手な管理職は、AIを使うのも上手なのではないか、という気がしていたからです。

人に仕事を任せることと、AIに仕事を任せること

優れた管理職は、何でも自分でやろうとはしません。

部下に仕事を任せる際には、仕事の目的や期待する成果を伝え、相手の能力や経験を踏まえて任せ方を考えます。

そして、必要なタイミングで状況を確認し、助言したり、軌道修正したりします。

出てきた成果についても、単に受け取るだけでなく、その妥当性を判断し、必要に応じて改善を求めます。

AIを使うときも、ずいぶん似ているのではないでしょうか。

AIに何となく仕事を丸投げして、期待した結果が出てこないと「AIは使えない」と考えてしまう。

反対に、目的や前提条件、期待する成果をきちんと伝え、途中で確認し、必要に応じて指示を修正する。

さらに、出てきた成果物が妥当かどうかを、自分自身の知識や経験に照らして判断する。

こうしたプロセスは、部下に仕事を任せることと共通しているように思います。

管理職だからAIを上手に使えるというよりも、人に仕事を任せて成果を引き出すのが上手な人は、AIから成果を引き出すのも上手なのかもしれません。

AI時代に求められるマネジメント能力

もう少し視野を広げてみると、AIに仕事を任せられる範囲が広がっていくこと自体は、必ずしも突然始まった変化ではないように思います。

かつて、そろばんで計算していた仕事は電卓に置き換わり、さらにパソコンやExcelで処理されるようになりました。情報を調べる仕事も、書籍や資料を探すことから、インターネットを活用することへと変わってきました。

技術の進歩によって、人間が直接行っていた作業の一部を道具や機械に任せ、その成果を使って次の仕事をする。AIの登場も、基本的にはこうした人類の技術発展の延長線上にあると考えています。もっとも、今回はその進歩のスピードが非常に速く、任せられる仕事の範囲も急速に広がっています。

そして、AIに任せられる仕事が増えるということは、人間が目的を考え、仕事を組み立て、成果を判断する機会も増えるということです。

そう考えると、これまで主に管理職に求められてきたような、仕事を任せ、成果を引き出す能力が、今後は管理職以外の人にも、ますます重要になっていくのかもしれません。

AIに仕事を任せることと、人をマネジメントすることの違い

一方で、人間のマネジメントには、AIに仕事を任せることとは異なる側面があります。

人間には感情があり、モチベーションがあり、仕事を通じて成長していくという側面があります。仕事の目的を伝え、適切な指示を出せば、それだけで相手が納得して動いてくれるわけではありません。

相手の考えを理解し、信頼関係を築き、時には意見をぶつけ合いながら合意を形成する。そうした人と人との関わりも、マネジメントの重要な役割です。

このことは、コロナ禍を契機に普及したテレワークにも通じるように思います。

テレワークは、業務を効率的に、より高い付加価値を生み出せる形で進めるための手段です。例えば、一人で集中して資料を作成する仕事であれば、必ずしもオフィスに集まる必要はありません。

一方で、ブレインストーミングや、意見を交わしながら方向性を決めていくような場面では、実際に顔を合わせた方が議論が深まり、納得感も得られやすいことがあります。また、同じ職場にいることで、他の人たちの会話や仕事の進め方に触れ、意識せずに情報を得たり、学んだりすることもあります。

つまり、テレワークか出社かという二者択一の問題でもなければ、どちらが善でどちらが悪という善悪二元論で考えるべきものでもありません。それぞれの特性を理解し、仕事の目的や内容に応じて、効果的な方法を選択することが重要なのだと思います。

従来は、多くの人が同じオフィスに集まって仕事をすることが当たり前だったため、そのメリットとデメリットをあまり意識する必要がありませんでした。しかし、テレワークという選択肢が生まれたことで、どのような仕事を、どのような環境で行うことが効果的なのかを、意識的に考える必要が出てきました。

AIの普及によって、マネジメントにも同じようなことが起こるのではないでしょうか。

AIに任せられる仕事が増える一方で、人間同士の信頼関係の構築や、納得感の醸成、モチベーションの向上、人材の成長支援といった役割は、引き続き人間が担うことになります。

むしろ、AIに仕事を任せられる範囲が広がるほど、こうした人間ならではのマネジメントの役割が、これまで以上に意識されるようになるのかもしれません。

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